新装版 人を動かす

本書は、出版から80年近く経った今でも世界中で売れ続ける、現代の古典ともいえる名著だ。自己啓発書を読むなら、まずこれを読まねばならないという1冊である。

「人を動かす」ためのさまざまな原則は、著者が長年にわたって集めた資料や、実践に裏付けられている。各章に、偉大な政治家や実業家の行いや、ビジネスや日常の場における具体例がたくさん示されており、原則の理解を容易にしている。それらのエピソードの中には、読者の心を揺さぶるものがいくつもある。例えば、「人を非難しない」という原則についての章に、ある父親が書いた論説の引用がある。子どもを叱ってしまった父親が、深くそのことを悔い、反省する文章だが、これはじつに涙なくして読めない。

実益や向上心のために本書を手にとる方は多いのかもしれないが、本書はそれらを満たしてあまりあるものを与えてくれると保証する。「人を動かす」原則に習熟するということは、小手先の何かを身につけることではない。それは、自らの人格を養い、互いを高め合うためのふるまいを身につけることにつながっていくように思える。

とりもなおさず、本書で学べることは、職場や家族や友人などのあらゆる人間関係に使える、普遍的な真理をついているともいえる。贈り物にする方も少なくないようで、インターネット上にある膨大な数のレビューの中には、部活の運営に悩む高校生の息子さんにプレゼントした、という母親の書き込みも見られた。

本書を読む時間は、感動的で豊かな時間になることだろう。皆さまに心よりおすすめしたい。

本書の要点

 
 
  • 要点
    1
     人を動かすための大事な原則は次のとおりだ。まず、人を非難しないこと。そして、人の欲する自己の重要感や、その人の欲しがるものを推測して与えることが、人を行動させることにつながる。
  • 要点
    2
     人を説得するには、例えば次のような原則がある。互いの気分を悪くする議論は避けること。相手の「イエス」を引き出しやすくするために、「イエス」をもらえる質問から始めること。相手の対抗心を刺激し、やる気を起こさせること。

要約

 
 

【必読ポイント!】人を動かす三つの原則

批判や非難をしない
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どんな人も、非難されても自分の非を認めようとはしないものだ。

アメリカ犯罪史に残る、「二丁ピストルのクローレー」という凶悪犯がいる。彼は、ほんの些細なきっかけからでも、簡単にピストルを撃ちまくり、人を殺した。しかし、彼がしたためた手紙には、彼自身のことがこう語られていたという。「私の心――それは、疲れ果てた心ではあるが、やさしい心である。だれひとり人を傷つけようとは思わぬ心である」。自分の行為は正しいと考えている犯罪者は、めずらしくないそうである。

極悪人たちがそうだとしたら、一般の人間が自分のことをどう思っているかは、想像に難くない。どんなときも、自分のことを正当化するのが人間というものなのだ。すると、他人を批判したり、非難したりすることは、じつに無益で、相手を怒らせるだけのことだとわかるだろう。人は他人の批判を恐れ、賞賛こそを強く望んでいる。

ある工場では、ヘルメットの着用を義務づけることにし、工場長はそうしない職員を厳しくとがめた。すると相手は不満そうにして、見られていないところではヘルメットを脱いでしまった。そこで、工場長はやり方を変えた。ヘルメットは確かに快適ではない、と何気なく切り出し、でも危険が防げるのだからかぶろう、と穏やかに話すと、相手は怒らずにヘルメットを着用するようになったという。

リンカーンは若い頃、ある政治家を風刺する文章を新聞に寄稿したところ、プライドの高い政治家は激怒し、リンカーンに決闘を申し込んだ。いよいよ果し合いというところで介添人が割り込み、事なきを得たが、リンカーンは人の扱い方について教訓を得た。その後、どんなことがあっても、人を馬鹿にせず、人を非難しなくなったという。

南北戦争の折、彼の指揮下にあったミード将軍が、ここぞという場面で命令に従わず、ポトマック河地区での戦闘の勝機を逃してしまった。落胆し、腹を立て、リンカーンはミード将軍へ手紙を書いた。しかし、その手紙は、死後にリンカーンの書類の間から発見された。つまり、リンカーンは投函しなかったのである。

人を非難するよりも、その人がなぜそういうことをしたのか、考えてみるほうがよいのではないだろうか。「神様でさえ、人を裁くには、その人の死後までお待ちになる」とは、英国の文学者ドクター・ジョンソンの言葉である。

重要感をもたせる
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人を動かすには、人が欲しがっているものを与えることだ。

人の欲求のうち、睡眠や食欲といったものは、なくてはならないものだが、たいていは満たされている。案外根強い欲求で、なかなか満たされないものは「自己の重要感」だ。

「自己の重要感」のために、英国の小説家ディケンズは小説を書き、建築家クリストファー・レンは傑作をつくりあげ、ロックフェラーは財を成した。また、この欲求のために、人は大きな自動車を買い、わが子の自慢をする。

「自己の重要感」が現実に満たされないことで、精神の異常をきたしてしまう人も、世の中にはいる。ある女性の患者は結婚に失敗し、夫は彼女を愛してくれないし、子どもも生まれない。そのため、彼女は狂気の世界で夫と離婚し、イギリス貴族と結婚し、赤ん坊が毎夜生まれていると信じている。

事ほど左様に、人には「自己の重要感」は欠かせないものなのだ。だからこそ、その欲求を満たしてやることが有効なことは言うまでもない。

アンドルー・カーネギーが、U・S・スチール社が設立されたとき社長に迎えた、チャールズ・シュワッブという人物がいる。彼は人あつかいの名人だった。彼の言葉が本文に引用されているので、部分的に抜粋しよう。「他人の長所を伸ばすには、ほめることと、励ますことが何よりの方法だ。上役から叱られることほど、向上心を害するものはない。わたしは決して人を非難しない。人を働かせるには奨励が必要だと信じている」。これが、まさに秘訣だ。

ある労務管理を担当する女性は、勤務態度の悪い用務員に手を焼いていた。が、そんな彼がたまにはまともな仕事をすることを見つけ、そのときは人前で彼をほめるようにした。すると、だんだんと勤務態度は改善し、その用務員はきちんとした仕事をするようになったという。

注意しておきたいのは、賞賛の言葉は真実で、お世辞は偽物だということだ。うそでない、真心からの賛辞を相手に与えれば、相手はその言葉をいつまでも大切にし、その通りになろうと行動してくれることだろう。

人の立場に身を置き、強い欲求を起こさせる
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前項では、人が根強く欲しがっている「自己の重要感」を与え、人を動かすことを挙げた。この項では、人を動かすために、人の「強い欲求を起こさせる」ことを考える。

たいていの場合、人は自分の立場から物事を見て、それを相手に伝えてしまう。例えば、仲間を誘ってバスケット・ボールをやりたいというある人が、皆に向かって、自分がいかにバスケット・ボールをやりたいということを語っても意味がない。皆に、バスケット・ボールをやれば元気がでるとか、とてもおもしろいとか、やることによって得られる利益を伝えなければ人は集まらない。

小さな子どもの偏食を直そうというときも同じである。「坊やにこれを食べてもらいたいんだよ」と自分の気持ちを語ったところで、子どもの心は動かせない。例えば、その子は、じつは近所のガキ大将にいじめられていたとする。その心を読み取って、「お母さんのいうものを何でも食べさえすれば、いまに、坊やはあの子よりも強くなるよ」という言葉をかけるだけで、子どもは何でも食べるようになるのだ。

相手の立場に身を置き、その人の好むものを手に入れる方法を教えてやることで、人を動かすことが可能になる。自動車王ヘンリー・フォードの言葉が本文に引用されているので、紹介しよう。「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」。

人を説得する原則

議論に勝つには、議論を避ける
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著者が出席したパーティーで、となりに座っていた男が、ある引用句に関わりのあるおもしろい話をした。その引用の出どころが、男は聖書だと言ったが、著者はその出典はシェークスピアだということに自信があった。そこでそのことを指摘すると、男は激怒し、著者の友人がなだめるかたちとなった。

議論して、まちがいを証明する必要がどこにあったろうか。相手は自尊心を傷つけられて怒ってしまった。議論をして勝ったとしても、相手の意見は変わらず、自分が嫌われるだけだ。議論に勝つための方法とは、つまり、議論を避けることなのである。

所得税の顧問をしているパーソンズという男が、税務監査官と議論を戦わせていた。九千ドルの項目が課税対象になるか否かという問題だった。その監査官が、議論をするほど意地になるので、パーソンズは作戦を変えた。議論をひとまずやめ、自分と違ってあなたは実務から経験を得ている、すばらしいことだというふうに、本心から賞賛したのだ。すると監査官は自分の仕事について長々と話しはじめ、問題を持ち帰った。そして、数日後に、パーソンズの申告どおりの税金に決定したという連絡がきた。

意見の不一致から口論になりそうなときは、腹をたてず、相手の意見をよく考えるべきだ。そして、自分が反論することが問題の解決につながるのか、冷静に見極めるべきだ。

相手が「イエス」と答えられる問題を選ぶ
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人と話をするときは、意見が一致しているポイントから始める。同じ目的に向かっているのだということを強調し、違いはそこに至るまでの方法だけだというふうに、話を進めていく。つまり、最初は相手に「イエス」と言わせつづけるのだ。

これは心理学的に効果のある方法だ。人間が「ノー」と言うとき、言葉だけでなく、筋肉や神経といった身体全体の組織が全力で拒否の体勢をとる。そこから「イエス」に転じさせるには、たいへんな努力を有する。しかし、「イエス」と言うときにはこうした現象は起こらない。「イエス」と言い続けさせると、相手の心理は肯定的な方へと向かい、その勢いにのることで次の「イエス」をもらいやすくなる。

グリニッチ貯蓄銀行の出納係、エバーソンが、このテクニックを用いて、逃しそうになった客をつかまえた事例を見てみよう。

ある男が預金口座を開くためにやってきた。その男は、必要事項のいくつかの質問に、どうしても答えない。それなら口座を開くわけにいかないとつっぱねてしまうこともできたが、エバーソンはそうしなかった。客の希望に沿って話し、「イエス」をもらうよう心がけた。気に入らない質問に答える必要はないと伝え、でも、仮に万が一のことがあったら、預金を、法的にあなたの近親が受け取れるようにしたくはありませんか?――というふうに、相手のための問いを繰り返した。すると、男は彼自身の一切のことを話し、彼の母を受取人にして信託口座を開いた。

また、いわゆる「ソクラテス式問答法」では、相手から「イエス」という答えを引き出すことを主眼としている。「イエス」を重ねていわせることで、相手が最初に否定していた問題についても「イエス」と答えさせてしまうという方法だ。

対抗意識を刺激する

前述の、U・Sスチールのチャールズ・シュワッブの担当している工場のうち、業績の上がらない工場があった。そこで、シュワッブは、昼勤組に今日は何回鋳物を流したかを尋ね、床の上に大きく数字を書いていった。夜勤組はその数字の意味を尋ね、自分たちがそれを超えたので、新しい数字に書き換えた。それを見た昼勤組も、改めて奮起して数字を更新した。この工場は、だんだん業績があがっていった。

これについて、シュワッブ自身の言葉が引用されている。

「仕事には競争心がたいせつである。あくどい金もうけの競争ではなく、他人よりもすぐれたいという競争心を利用すべきである」。

負けじ魂を刺激することで、人が動くのである。

かつてのニューヨーク知事アル・スミスは、シンシン刑務所の所長のなり手がいなくて困っていた。刑務所は腐敗し、強力な支配者を必要としていた。スミスは、及び腰の候補者に対して、実際にこれは大仕事だ、よほどの人物でないとつとまらない、というふうに焚き付けた。候補者は、負けん気を起こして、その大仕事をやってみようという気になった。

存分に腕をふるい、相手に打ち勝つということが、あらゆる競技や競争を成立せしめている。優位を占めたいという欲求は、人間の行動の源になるのだ。

一読のすすめ

 
 

ここでは、本書の基礎となる「人を動かす三原則」と、「人を説得する十二原則」の中からいくつかを紹介している。そのほかに、本書には、「人に好かれる六原則」「人を変える九原則」「幸福な家庭をつくる七原則」が含まれ、いずれもたいへん充実した内容だ。通読はもちろん、繰り返し読むことをおすすめしたい。

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