最高の自分を引き出す法

人は誰しも悩みを抱えている。そして多くの人に共通することとして、「突発的な欲求に対してノーと言えない」悩みはないだろうか。大学時代の試験対策を早朝起きてからやろうとするが結局寝過ごしてしまう、ダイエットすると誓ったはずなのにコンビニの新商品スイーツについ手を伸ばしてしまう。つい目先の利益を優先して行動してしまう衝動を、どうにかしてコントロールすることはできないものだろうか。

本書はそんな悩みをもった人にはうってつけの書籍だ。解決策が書いてある。本書の主題は目標を達成するために、どのようにして強い意志力を持つかということである。著者であるケリー氏は、スタンフォード大学でまさにその意志力についての講義を行っており、その講義をもとにした著書「スタンフォードの自分を変える教室(2012年 大和書房)」は世界中で爆発的なヒット作となっている。本書はその続編であり、ケリー氏が日本で行った特別講義を書籍化したものである。

本書によると、そもそもなぜ我々が衝動的な行動をとってしまうのかについては、科学的に証明できるという。好物を見ると、身体に「闘争・逃走反応」が起きストレスホルモンが分泌され、理性的な意思決定を下すための前頭前皮質が機能低下を起こす、というのがそのメカニズムのようだ。しかし、ケリー氏はこのストレス反応を抑制し、コントロールすること、ひいてはその力を後天的に鍛えることすら十分に可能であると解説している。

私も本書を読んでから、グルメサイトを見ながらトレーニングをしているが、確かに効果がありそうだ。

本書の要点

 
 
  • 要点
    1
     人間には、「闘争・逃走反応」「休止・計画反応」という2つの状態があり、前者の状態では脳の前頭前皮質は機能しておらず、理性的な判断が困難である。人間には、意図的に休止・計画反応を起こすことも可能である。
  • 要点
    2
     ①睡眠を十分にとる、②血糖値をコントロールする、③小さなステップで脳を鍛える、④将来を見ることによって、意志力を後天的に鍛えられる。
  • 要点
    3
     人間の脳にはミラーニューロンという細胞が多数存在し、無意識のうちに他人の影響を受けているのと同時に、自分自身も他人に影響を与えているため、意志力は伝染する。

要約

 
 

「難しいこと」を実行する力をつける

本書の位置付け

本書は2013年2月1日に東京・新宿で行われた特別講義の模様をDVDブック化したものである。本書には特別講義のDVDが付いており、その英文全文を書き起こしたものが末尾に、加筆・修正された日本語が前半部に記されている。ケリー・マクゴニカル氏の講義は非常に口調もやわらかで、しかも説得力がある。前著「スタンフォードの自分を変える教室」と内容は似ているが、分量も手ごろで簡単に読めるのが本書の優れているところだ。それではハイライトに入ろう。

「あなたの問題」から考えはじめよう
iStock/Thinkstock

まず第1章では『「難しいこと」を実行する力をつける』という章題について語られている。まずケリー氏は講義参加者に次のような質問を問いかけている。

「意志力の問題であなたが手を焼いているのはどんなことですか?」

世界中どこへ行っても、まずこの質問を受講者に投げかけているそうだ。そして世界中のどこの国に行っても、多くの人が同じような問題を抱えているという。

食べ物をはじめとする好物に感じる誘惑や、時間の使い方が下手であることへの悩みが、その代表的なものであるという。まずは自分がどのような問題を抱えているか考えることから始めるのだ。

脳が「快楽」に負けるとき

では、なぜ我々は相反するふたつの自己のせめぎあい(欲求に対する葛藤)の問題に直面するのだろうか。これに関して、この10年間で神経科学の分野から出てきた最も説得力のある考え方は、「脳にはふたつのモードが存在し、それらが切り替わることによって、まったく異なる自分になってしまう」というものだとケリー氏は語る。脳のモードが切り替わると、目標もがらりと変わり、正反対の意思決定をも行ってしまうのだという。

脳のふたつのモードのうち、ひとつはとても衝動的なものである。こちらのモードになっていると、我々は目先の利益しか考えられなくなり、ただひたすらに快楽の方面に向かってしまうのだ。

我々が大きな視野で物事を見て、目標を見失わずにいるためには、意志力(「やる力」「やらない力」「望む力」の3つ)が必要である。

「めげない人」の体で起きていること

脳の活動を止めてしまうホルモン
Fuse/Thinkstock

どうしたら誘惑に対して「ノー」と言える賢さと勇気を持った自分になれるのか。どうしたら、やるべきだけれど困難なことに対して「イエス」と言い、実際にそれを行うことができるのか。その答えは科学的に証明されている。本章は、それができる人の体では、いったい何が起きているのか解説されている。

突然、部屋のドアからトラが飛び込んできた状況を想像してもらいたい。心臓の鼓動が激しくなり、呼吸も荒くなるだろう。この闘争・逃走反応状態では、ストレスホルモンが放出され、「やる力」「やらない力」「望む力」をつかさどる前頭前皮質の活動を停止させてしまう。生きるか死ぬかの瀬戸際であることを考えれば合点がいくことだ。これと同様に我々は脅威や不安などの心理的なストレスを感じると、最高の自分になろうとする力は妨げられてしまう。

我々を脅かすのは何もトラだけではない。甘いお菓子を見たとたんに闘争・逃走反応が起きると、自制心などすっ飛んでしまい、前頭前皮質は活動を停止してしまうのだ。

この反応を起こせば「理性的」になれる

ありがたいことに、我々には闘争・逃走反応とは全く逆の「休止・計画反応」を持っている。この反応が起きると、心拍数は下がり、呼吸は遅くなり、脳はまともな判断ができる状態となる。

ケリー氏にとって特に印象深い実験として以下のようなものがあったという。

実験参加者の全員がアルコール依存症で、断酒を続けようと必死に努力している。この実験では、その参加者の前にお酒を置いた。その瞬間、参加者の体に闘争・逃走反応が起きるか、あるいは休止・計画反応が起きるか、心拍数や呼吸をもとに観測した。

その後、どの参加者が飲酒を再開する可能性があるかについて予測を立て、経過を観察したところ、反応の種類によって予測が立てられることが判明した。

この実験結果を考慮すると、体の状態を少し変えるだけで考え方に大きな変化をもたらすことができるのである。呼吸のペースをわざと遅くするなどして、ストレス反応から脱すれば、意志力を発揮することができるのだ。

【必読ポイント!】意志力を「筋肉」のように鍛える秘訣

睡眠を十分にとる
iStock/Thinkstock

それでは、どのようにすれば意志力が鍛えられるのか。ここでは4つの手法が紹介されている。まず一つ目はなじみ深いものであると思うが、睡眠を十分にとる、である。睡眠不足の状態では、「望む力」をつかさどる脳の部分が働かず、自分にとって最も大事な目標を思い出すことができなくなるのだそうだ。

したがって、冴えている自分になりたいと思ったら、脳を休める単純な方法が効果的である。エクササイズや瞑想やヨガなど、体を動かしたり休めたりすることが、最高の自分を引き出せる状態に切り替えるのである。

血糖値をコントロールする

イェール大学の研究によると、被験者にインスリンとグルコースを点滴し、血糖値を操作することで、被験者の意思決定をことごとく操れることが判明したという。血糖値が上がると意志力の拠点である前頭前皮質の活動は活発になるのだ。

血糖値があまり低くならないように注意することで、自分の感情をコントロールしたり、望ましい選択をしたりすることができるのだ。

小さなステップで脳を鍛える

大きな変化を起こしたり、大きな目標を達成したりするには、一気に取り組むのではなく、目標までの道のりをできるだけ小さなステップに分け、意志力のトレーニングをするつもりで、小さなステップにしっかりと取り組むのが良い。自分がいまできることより、ほんの少し難しいことに挑戦していけば、道のりが易しくなるのだ。

将来を見る

最後に紹介する手法は、20年後の自分を意識することである。スタンフォードの研究によると、将来の自分を身近に感じる状態が良い意思決定をできる状態であることがわかった。

将来の自分が今の自分と完全に同じになるとは思っていないため、将来に向けてよい変化を起こすことが可能になるのだという。自分が選択することの積み重ねが将来の自分をつくるのであり、良くも悪くも自分を大きく変える可能性があるのだ。

あなたは「ミラーニューロン」に動かされている

「他人の行動」を変える方法

ハーバード大学の研究者の論文によると、意志力は自己コントロールだけの問題ではないという。その研究によると、友人のひとりが太ると、自分も太ってしまう可能性が著しく増加するという。夫と妻、その他の家族でも同様である。社会的ネットワークのなかで互いに好意を持ち、尊敬し合っている仲間のあいだで、さらに肥満が広がっていくのだ。

それと同様に仲間の誰かがタバコをやめると、その人の友人や家族もタバコを辞める確率が高くなる。

これは、我々の選択はそれだけ周りの人に影響を及ぼし、また、我々自身も周りの人の影響を受けているということを意味している。

「自己」の認識には「好きな人」も入っている
iStock/Thinkstock

なぜ意志力は感染するのか。その理由のひとつは、自分について考えるときは、自分のことだけではなく、自分が大切に思っている人のことも考えているということである。自分の好きな人が変化を起こすと、脳が自動的にその人の変化なり目標を自分のものとして取り込んでしまうのだ。

もうひとつの理由は、人間の脳にはミラーニューロンと呼ばれる細胞が多数存在し、この細胞は他人が考えていることや感じていることに対し、つねに注意を払っているのだ。このミラーニューロンの働きによって、我々はほかの人の意志力に感染するのである。

「思い浮かべる」だけで意志力が強くなる

自分が影響を受けている人、また逆に自分の影響を受けやすい人は誰か。また、自分が真剣に取り組みたい目標や価値観を共有している人は誰か。ケリー氏によれば、このようなことを思い浮かべるだけで意志力が強くなるという。人間関係を認識し、深めていくことは自己コントロールの強化につながるのだ。

私がいちばん使っている方法

欲求を静かに見つめる
iStock/Thinkstock

欲求やストレスを感じたときに、自分への思いやりを持ちながらじっと注意を払っていると、反射的な行動を起こすための脳内の連絡が途絶える。それによって、欲求やストレスを感じていても、すぐに反射的な行動を起こさなくなる。

ふつうはストレスや欲求を感じたら、ああ、困ったと思って、とりあえず忘れようとするだろう。そうではなく、苦しんでいる自分に手を差し伸べるようなつもりになるのだ。

このテクニックは喫煙者やダイエットの問題を抱えている人、アルコールや薬物の依存症に苦しんでいる人などにも効果があることがわかっている。この方法を使うと、恐怖や不安を感じても、思いやりのあるやさしい態度で向き合えるようになる。そうやって心のゆとりを取り戻すことにより、自分の目標にふさわしい行動をとれるようになるのだ。

上記手法はケリー氏が最もよく使う手法として紹介されているが、注意しなければならないのは、失敗を恥じたり、罪悪感を抱いたりすると、意志力が奪われてしまうことだという。自分に思いやりをもてば、それとは逆のことが起こるのだ。

自分と対話するための戦略

最後は、つらい思いをしているときに、自分に対して思いやりをもつための実践的な戦略が紹介されている。ケリー氏のスタンフォードの講義「思いやりの科学」では次の3ステップにしたがって自分自身と対話する方法を教えているそうだ。

1つめのステップは、心のなかで感じていることを、すべてありのままに見つめる。落ち着いてやさしい気持ちで自分を見つめ、つらい気持ちを受け止められるようになる。

2つめのステップは、どんなにつらいとしても、つらい思いをしているのは自分だけではない、ということを思い出す。人は誰でも失敗し、挫折もするのである。何も自分だけの欠点ではないのだ。

3つめのステップは、大切な人に話しかけるつもりで、自分に話しかける。批判的な目で見るようなことをせず、くじけそうになっている友達に言葉をかけるとしたら、どんなことを言うだろうかと考えるのだ。

一読のすすめ

 
 

本書は全6章で構成されており、1~5章のエッセンスをハイライトでは記した。本書にはハイライトで紹介できていない多種多様な実験結果などが解説されている。また6章はケリー氏が日本の特別講義受講者からの質疑に応じているが、「ものの見方を変えるにはどうしたらよいか」、「脳科学をビジネスに生かすにはどうすればいいか」など、非常に興味深い問いに対するケリー氏の見解が述べられている。是非本書をご一読いただきたい。

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